バットの歴史/進化
ソフトボールは、前身として知られているインドアベースボールがアメリカで行われていた19世紀後半頃から現在に至るまで、さまざまなルールが整備され用具も進化を続けてきた。
その進化の過程の中でバットは木製から金属製、そして「軽くて飛ぶ」カーボン製へと移り替わってきた。選手が「軽さ」を重視する理由は、バットの「軽さ」が初動に直結するからだ。トップレベルの投手だと、打者の体感速度は野球に比べて投手と打者の距離が短いため、160km/hを超えるとも言われ振り遅れてしまうのだ。
もう一つ、選手が重視するのが「飛び」
しかし2016年に日本国内で規制がかかった。「反発係数規制」により飛び過ぎるバットが使用禁止になったのだ。ただでさえコンパクトなフィールドでスピード感のあるプレーが展開されるソフトボール。強烈な打球が選手に当たれば大ケガをしかねない。これを防ぐための措置だった。
「ポイントは硬い打感」
大舞台での活躍が記憶に残る女子日本代表の選手を支えるMIZUNOの用具開発課・城市直也さんは次のように話す。
「それまでは、いかに飛ぶバットを作るかに注力していましたが、規制により反発係数は各社横一線になりました。選手へのヒアリングを重ねるなか、選手が求めるトレンドは『硬い打感』だとわかってきました。でもそれを従来の素材で実現するのは難しかったのです」
そこで、新しい素材として浮上したのが、テイジンの炭素繊維「テナックス」だった。そもそも炭素繊維の強度は鉄の10倍でありながら、重量は4分の1という注目の素材。さらに炭素繊維と樹脂でそれぞれにあった最適な特性を選び、それらを組み合わせることで選手が求める「硬い打感」が実現できるとMIZUNOは考えた。ところが、そう簡単にはいかなかった。MIZUNOの企画生産課・須藤竜史さんは、今だから話せる苦い失敗を打ち明ける。
「たしか最初のプロトタイプを日本代表の練習に持参したときでした。試打をしていただいたところ選手の要望とバットの性能に乖離があり、満足いく結果が出せませんでした。このときはとても落ち込みました」
そこから、なぜ乖離があったのかを解明するために、テイジンの開発者と、選手の要望に応える高強度タイプのカーボン素材と特殊樹脂の組み合わせによる材料選定に加え、バットに成形する際の温度、圧力、時間といった加工条件などを変えながらベストな成形方法を試行錯誤し改良を重ねた。そしてついに耐久性を備えつつ、イメージ通りに「硬い打感」のある製品が完成した。それが「Tenax PW」を用いたバット「X02」である。城市さん、須藤さんの2人は「高強度、高弾性を実現し、さらに耐久性にも優れた理想的なバットができました」と胸を張る。
SDGsの達成を念頭に置き、
選手の要望に応じた用具を製品化していく
SDGsの達成を念頭に置き、
選手の要望に応じた用具を
製品化していく
MIZUNOはこれまでも国内、海外問わず選手の要望に応じた用具を製品化してきた。たとえば、テクニックで打つ日本選手にはグリップとヘッドが一体となった「ワンピースタイプ」。パワーで飛ばすアメリカ選手には詰まったときにしびれが少ない「ツーピースタイプ」、重量バランスの調整においては、繊細なバットコントロールを重視する選手なら手前重心、パワーがありバットの遠心力を利用する選手なら先重心など、MIZUNOの技術力を生かした製品を作り上げてきた。
須藤さんは、現在「X02」を使用する日本代表の山田恵里選手の興味深いコメントを記憶している。「かつては、高めのライズボールに負けないようにしっかり強くスイングをするのがバッターにとって最大のテーマだったのが、今は抜き球、いわゆるチェンジアップや変化球が多彩になり、低めにコントロールされたときにもしっかりバットを合わせて打たなければならないので、ハイブリッドなスイング(バッティング)技術が要求されている」
元々硬い打感を好み「X02」を選んだ山田選手。そのことは、日本代表として長年活躍し続ける山田選手が求める打感や重量バランスを「X02」が兼ね備え、「ハイブリッド」なバッティングができるバットであることを証明している。
選手の要望を汲み取り機能性の高い商品を開発し製品化するとともに、これから求められるのがSDGs。城市さんは「これまではバットの性能向上に専念していましたが、これからはスポーツ用品を通じて、持続可能な社会の実現のために、どんな貢献ができるかも念頭に置きながら開発をしていかなければなりません」と強調する。MIZUNOの姿勢は素材を提供するテイジンが掲げるサステナビリティ方針とも合致する。MIZUNO×テイジンのタッグなら、「リサイクル可能なバット」への夢も広がる。